1月25日の札幌圏で何が起きたのか
きっかけは2026年1月25日から26日にかけての大雪と低温です。札幌市では25日16時の積雪が112センチに達し、1月に1メートルを超えるのは21年ぶりでした。21時までの24時間降雪量は54センチで、1月としては観測史上最も多い降り方でした。
この降雪で、札幌圏の多数の駅で分岐器(ポイント)が切り替わらない不転換が続発し、除雪のたびに列車を止めざるを得ない状況になりました。さらに長時間停車した列車ではブレーキの制輪子が凍りつき、千歳線内の5本の列車で解除作業に長い時間がかかりました。快速エアポートは1編成6両で、運転士1人が全車両の凍結を解除して回るため、動かしたくても動かせない時間が積み上がっていきます。
線路上で止められた列車は29本、乗っていたお客は約1万人にのぼりました。新千歳空港では25日に約7,000人が滞留し、JR北海道は救済列車6本を運転して対応しています。翌26日にも約2,000人の滞留が発生し、救済列車4本が運転されました。
とくに批判を集めたのが、運転再開見込みが二転三転したことです。当初の見込みから最終的な再開までの経過は次のとおりです。
| 段階 | 発表した再開見込み | 変更の理由 |
|---|---|---|
| 当初計画 | 25日18時頃 | 札幌駅・苗穂駅の機械除雪を計画 |
| 1回目の変更 | 25日21時頃 | 道路事情で除雪作業員の到着が遅れた |
| 2回目の変更 | 26日10時頃 | 除雪で転線するたびに分岐器不転換が多発し、予報以上の降雪で除雪範囲が拡大 |
| 3回目の変更 | 26日13時頃 | 停止していた列車の制輪子凍結の解除に時間を要した |
夕方に「18時頃には動く」と言われた人が、最終的に翌日の昼過ぎまで足止めされた計算になります。空港や駅で待つ側からすると、この見込みの出し方こそが最大の問題でした。
最終報告が示した根本原因は雪ではなく組織の側にあった
今回の報告で興味深いのは、JR北海道が根本原因を「豪雪そのもの」に置いていない点です。報告書は、社内制度である「札幌圏大雪警戒宣言」の発動基準が不十分だったために対策会議の設置が遅れ、その結果として運行管理センターが過大な業務を1か所で抱え込み、適切な運転再開見込みを組み立てられなかった、と結論づけています。
札幌圏大雪警戒宣言は、2022年2月の札幌圏大雪による大規模輸送障害を受けて設けられた仕組みで、輸送障害を及ぼすような降雪予報が出た場合に発動し、駅や保線所、運転士からの情報収集を強化するものです。ところが発動条件が「荒天予報」しかなく、1月25日は16時頃に雪がやむ予報だったため発動されませんでした。制度はあったのに、発動の引き金が現実の降り方に合っていなかったわけです。
2022年に決めた改善策のうち、除雪作業計画を対策本部で共有する、見込みが立たない場合は率直にその旨を伝える、北海道エアポートとホットラインで連携する、といった項目には報告書自身が「×」の判定を付けています。4年前の教訓が実運用に落ちていなかったことを、自社の文書で認めた形です。
快速エアポートを最優先に残すという新しい運行の考え方
最終報告でもっとも実務的な変更が、雪害時の運行オペレーションです。融雪設備で処理しきれない状況では、切り替える分岐器の数を絞り、必要な分岐器にだけ人を配置する方針が示されました。具体的には、札幌駅で使用する番線を限定し、苗穂駅・白石駅の分岐器は転換せず固定することで、快速エアポートの運行を一定程度確保します。
それも難しい場合の次善策として、新千歳空港の滞留者を救うために新札幌駅までの応急的な列車を走らせることが検討されます。新札幌は地下鉄東西線に接続しているため、JRが札幌まで到達できなくても、地下鉄で市内へ抜ける経路が残ります。手配に時間がかかる場合は札幌折り返しを優先するとされています。
情報提供の面では、再開見込みを出す際に現地の除雪の進み具合を把握したうえで発表することに加え、次にいつ発表するかを必ず示す運用に変わります。作業終了の見通しが立たない場合は、渋滞などの理由も含めて率直に発表するとしています。
| 見直しの分野 | 変更後の内容 |
|---|---|
| 警戒宣言の発動基準 | 大雪警報(石狩中部・石狩南部)、石狩湾小低気圧をもたらす気象予報、積雪深計が1時間あたり10センチを記録、のいずれかで発動し部長級を緊急招集 |
| 北海道エアポートとの連携 | 課長級1名だった情報提供を部長級を含む4名体制に増強し、千歳線の障害時は指令室で対応 |
| 空港・駅での案内 | 本社社員を新千歳空港駅へ派遣。次の発表時刻を明示 |
| 非常食・飲料水 | 近隣に店舗がない上野幌駅に新たに配備し、南千歳駅・江別駅は数量を増やす |
| 札幌駅の滞留対策 | ホームに列車を据え付けて夜間の休憩場所として提供。地下歩行空間の利用を札幌市と調整 |
| 訪日外国人向け | 多言語放送に次の案内時刻や公式サイト・Xへの誘導を追加し、インバウンド向けサイトで快速エアポートの運行状況を強化 |
制輪子の凍結については、停車中の列車を複数回小刻みに動かして凍結を抑える対策と、対策会議から解除処置の支援要員を派遣する体制が新たに加わりました。
なぜ「エアポートだけは走らせる」なのか
ここからは公式発表に書かれていない部分の見立てになりますが、快速エアポートを最優先に置く判断には、いくつかの合理的な理由が重なっていると考えられます。
第一に、収益上の位置づけです。JR北海道が2026年7月3日に公表した2025年度の線区別収支では、札幌圏の4線区が公表を開始した2014年度以降で初めて通年の営業黒字となり、営業利益は9億73百万円でした。その中核が新千歳空港アクセスであり、快速エアポートは同社にとって数少ない稼げる列車です。除雪の人員と機械という限られた資源を配るとき、収益の柱に寄せるのは経営として自然な判断です。
第二に、代替手段が同時に失われる構造です。大雪の日は道央自動車道や札樽自動車道が通行止めになり、空港連絡バスも一緒に止まります。今回の報告でも、高速道路の通行止め時はバスも運休するという思い込みから、バス会社への連絡が運行状況の確認にとどまっていたことが課題として挙げられ、運休の「可能性」を検討した時点で一報を入れる運用に改められました。道路が死ぬ日には鉄道しか残らないという前提に立つと、空港アクセスの1本を守る優先度は高くなります。
第三に、滞留がもたらす社会的コストです。空港に7,000人が取り残される事態は、報道され、航空会社や北海道エアポートとの関係にも響きます。全路線を平等に少しずつ動かそうとして共倒れになるより、1本を確実に残して滞留の絶対数を抑えるほうが、被害の総量は小さくなります。
そしてもう一点、見落とせないのが「設備投資では解けない」と報告書が認めていることです。2022年の改善策どおりに除雪機械を増強し融雪設備も増やしたにもかかわらず、分岐器周辺の側雪除雪は人力に頼らざるを得ず、能力を超える降雪では不転換を防げないと明記されています。人手不足という一言で片づけられがちですが、実際には除雪という作業が装置化しきれず、動員できる人数の上限がそのまま輸送力の上限になっているということです。今回の「優先順位を決める」という結論は、その制約を認めたうえでの現実的な選択と受け止めるのが妥当ではないでしょうか。
冬に北海道へ行く人が取っておくべき備え
旅行者の立場では、この最終報告は「大雪の日、JRは全線を守るつもりはない」というメッセージとして読むのが実際的です。そのうえで、次のような組み立てが有効です。
帰国日・帰路の日程には余裕を持たせ、可能であれば前日のうちに空港近くへ移動しておくと安全です。札幌市内に泊まって当日朝に移動する計画は、12月から2月にかけては崩れる前提で考えたほうがよいでしょう。石狩中部・石狩南部に大雪警報が出た時点で、JR北海道が対策会議を招集する基準に達しています。旅行者にとっても、この警報が「予定を前倒しする合図」になります。
札幌方面へ向かう途中で列車が止まった場合、新千歳空港から新札幌までの応急列車が走る可能性があります。新札幌に着ければ地下鉄東西線で市内中心部へ抜けられるため、札幌行きが動かないという案内を聞いても、新札幌までの列車があるかどうかを確認する価値があります。
空港や駅での滞在が長引く場合に備え、飲料と軽食は手荷物に入れておくことをおすすめします。上野幌駅のように周辺に店舗がない駅では、今回の見直しで初めて非常食が配備されました。逆に言えば、これまでは何も置かれていなかったということです。
運行情報は、今後は「次にいつ発表するか」がセットで示されるようになります。JR北海道の公式サイトとXを確認し、次の発表時刻までは待つ、その時刻に再開の目処が出なければ宿を確保する、というように、発表時刻を判断のタイミングとして使うと動きやすくなります。
まとめ
今回の最終報告は、記録的な大雪という自然現象の話に見えて、実際には「限られた除雪能力をどこに集中させるか」という配分の話でした。快速エアポート最優先という結論は、札幌圏の収益構造と、道路が同時に止まる北海道特有の事情を踏まえれば筋が通っています。一方で、それ以外の路線を使う予定の人にとっては、止まる可能性を前提に日程を組む必要が出てきたことになります。この冬に北海道を訪れる予定がある人、とくに新千歳空港を朝一番の便で発つ計画の人は、前日の移動と宿の押さえ方を今のうちに見直しておくとよいでしょう。


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