高松琴平電気鉄道(ことでん)は2026年7月31日、四国運輸局に申請していた鉄道旅客運賃の上限変更が認可されたと発表しました。実施は2026年10月1日です。初乗り運賃は200円から230円になり、それ以外の区間は一律50円の値上げとなります。
今回の改定で見逃せないのが、運賃の額そのものよりも制度の変更です。ことでんはこれまで続けてきた途中下車制度を運賃改定にあわせて廃止します。高松築港から琴電琴平へ向かう途中で栗林公園に立ち寄る、といった乗り方をしてきた人にとっては、値上げ幅の50円以上に影響が大きい変更です。
初乗り230円、それ以外は一律50円の値上げ
改定の内容を整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施日 | 2026年10月1日 |
| 初乗り運賃(2キロ以下) | 200円 → 230円 |
| その他の区間 | 一律50円の値上げ |
| 改定率(定期外) | 15.4% |
| 改定率(通勤定期) | 15.6% |
| 改定率(通学定期) | 6.5% |
主な区間の運賃は次のように変わります。
| 区間 | 現行 | 改定後 |
|---|---|---|
| 高松築港〜琴電琴平 | 730円 | 780円 |
| 高松築港〜栗林公園 | 200円 | 230円 |
| 高松築港〜瓦町 | 200円 | 230円 |
| 高松築港〜長尾 | 550円 | 600円 |
通学定期の改定率が6.5%と、定期外や通勤定期の半分以下に抑えられている点は、地域の足としての性格を意識した設計です。ことでんは値上げの理由について、円安やエネルギー価格の高止まり、物価高によって鉄道施設の維持に不可欠な設備投資や修繕工事のコストが前回改定時の想定を大幅に上回るペースで上昇していること、労働人口の減少に対応する処遇改善による人材確保が急務であることを挙げています。
途中下車制度が廃止される
ことでんには、一定の条件のもとで途中駅で改札を出て、再び同じきっぷで乗車できる制度がありました。これが10月1日で廃止されます。同社はIC乗車券の普及を理由として説明しており、10月1日以降に途中下車したい場合は企画乗車券を利用するよう案内しています。
地方私鉄で片道乗車券の途中下車が認められている例は多くありません。ことでんの制度は、沿線に栗林公園や仏生山、屋島といった立ち寄り先が点在する路線の性格に合ったもので、利用者にとっては実質的な割引として機能していました。これが無くなると、途中で降りるたびにその区間の運賃を払い直す形になります。高松築港から琴電琴平まで780円で行けるところ、栗林公園で一度降りれば運賃は2区間に分かれ、合計額は通しで乗るより高くなります。
志度線の特定運賃も廃止
もう一つの変更が、志度線の一部区間に設定されていた特定運賃の廃止です。この区間はJR高徳線と並行しており、通常の対キロ運賃より10円安い運賃が設定されていました。今回の改定でこの制度がなくなるため、対象区間では一律50円の値上げと合わせて60円の値上げになります。
黒字なのになぜ値上げするのか
単年度の黒字では96億円の投資は賄えない
ことでんの経営は、少なくとも直近では悪くありません。2024年度は2年連続の黒字を計上し、2025年4〜9月期の純利益は前年同期比15%増の1億9,600万円でした。JR高松駅周辺のサンポート地区で再開発が進み、乗降客と運輸収入が増えているためです。
それでも値上げに踏み切る理由は、これから実行しようとしている投資の規模にあります。国土交通大臣は2024年6月27日、ことでんなどが申請した琴平線の鉄道事業再構築実施計画を認定しました。対象は琴平線の伏石〜琴電琴平間で、2024年7月からの5年間に総額約96億8,000万円を投じる内容です。
| 事業 | 事業費 |
|---|---|
| 新駅の整備 | 7億9,000万円 |
| 複線化 | 9億8,000万円 |
| 新車導入と設備更新 | 72億円 |
| 高齢者割引・乗継割引 | 7億円 |
半期の純利益が2億円弱という会社にとって、5年で97億円という事業費は自力で捻出できる水準ではありません。新車の導入だけを見ても、ことでんが2026年秋の運行開始を予定している新型車両2000形は、設計費2億円に加えて1両あたり5億円、4両で総額22億円がかかります。半期利益11年分に相当する金額です。
自治体が公費を投じるからこそ、運賃でも負担を求める構図
この計画では、ことでんが従来どおり第1種鉄道事業者として運行と施設の保守管理を担い、香川県と沿線の3市4町が利便性確保の取り組みに財政的な支援を行います。年間利用者数は2023年度の747万人から2028年度に830万人へ、営業損益は1億1,800万円から1億3,900万円へ増える見込みです。
ここが今回の運賃改定を読み解くうえで重要なところだと考えます。自治体が公費を投じる枠組みである以上、事業者側も自助努力を示さなければ計画の説明がつきません。「地元が金を出すから鉄道が残る」だけでは、税金を負担する住民の納得を得るのが難しいためです。運賃を上げて利用者にも相応の負担を求めることは、公費投入とセットで初めて成立する話ではないでしょうか。黒字であるにもかかわらず値上げする理由は、目先の赤字補填ではなく、5年間の投資計画を回し切るための原資づくりにあると見るのが自然です。
ことでんは長らく他社から譲り受けた中古車両を使い続け、「中古車博物館」とも呼ばれてきた事業者です。2000形は66年ぶりの新造車両にあたります。裏を返せば、それだけ長い間、新車を買わずに設備を延命させることで運賃を抑えてきたということでもあります。その延命がいよいよ限界に達したというのが、今回の改定の実態に近いはずです。
途中下車制度の廃止は実質的な値上げでもある
途中下車制度の廃止理由としてIC乗車券の普及が挙げられていますが、これは説明の一部でしかありません。ICカードで乗り降りすると、途中で改札を出た時点で運賃が精算されるため、制度としての整合性が取りにくくなるのは事実です。しかし利用者から見れば、通しで乗るより高い運賃を払うことになる以上、公表された改定率とは別に、もう一段の値上げが行われるのと変わりません。
同社が途中下車の代わりに企画乗車券を案内している点も見逃せません。フリーきっぷは1回の乗車あたりの単価では割高になることも多く、事業者にとっては1人あたりの購入額を引き上げる手段になります。制度の整理と客単価の改善を同時に進める、合理的な判断だと言えます。
旅行者への影響と対策
金刀比羅宮へ行くならフリーきっぷが基本になる
ことでんの琴平線は、金刀比羅宮(こんぴらさん)の最寄りである琴電琴平駅へ向かう路線です。高松築港から琴電琴平までの片道運賃は改定後780円、単純往復で1,560円になります。
一方、ことでんの企画乗車券は次のとおりです。
| きっぷ | 大人 | 小人 |
|---|---|---|
| ことでん1日フリーきっぷ | 1,600円 | 800円 |
| ことでんデジタルきっぷ(24時間) | 1,500円 | 750円 |
| ことでんデジタルきっぷ(48時間) | 2,800円 | 1,400円 |
デジタルきっぷの24時間タイプは1,500円で、高松築港〜琴電琴平の往復運賃1,560円を下回ります。琴平を単純往復するだけでも、改定後はフリーきっぷのほうが安くなる計算です。紙の1日フリーきっぷ1,600円でも差は40円しかなく、途中でどこか一駅でも降りれば確実に得になります。
途中下車制度がなくなることで、この差はさらに広がります。栗林公園に寄ってから琴平へ向かう、帰りに瓦町の商店街で降りる、といった旅程を組むなら、10月1日以降はフリーきっぷを前提に考えるのが実質的な標準になると考えてよいでしょう。
屋島・八栗など志度線沿線を回る場合も同様
志度線は屋島や八栗寺への玄関口にあたり、特定運賃の廃止で値上げ幅が60円になる区間があります。長尾線の長尾駅は四国八十八箇所第87番札所・長尾寺の最寄りです。ことでんは3路線とも観光の足として使える路線で、複数の路線をまたいで回るならフリーきっぷの優位性はさらに高くなります。
定期券の利用者は改定日をまたぐ購入時期を確認する
通勤定期は15.6%、通学定期は6.5%の改定率です。高松に赴任・進学する予定がある人は、購入時期によって数か月分の負担が変わります。改定日をまたぐ期間の定期券の取り扱いについては、ことでんの案内を確認してから購入時期を決めてください。
まとめ
ことでんは2026年10月1日に運賃を改定し、初乗りは230円、それ以外の区間は一律50円の値上げになります。あわせて途中下車制度と志度線の特定運賃が廃止されます。
黒字を維持している会社があえて値上げに踏み切る背景には、5年間で約96億8,000万円を投じる琴平線の再構築計画があります。66年ぶりの新造車両や複線化、新駅整備を実行するための原資を、自治体の支援と運賃の両方で確保する構図です。
旅行者にとって実際に効いてくるのは、途中下車制度の廃止です。高松から琴平を往復するだけでもフリーきっぷのほうが安くなり、途中で観光地に立ち寄る旅程なら差はさらに開きます。10月以降に香川を訪れる予定があるなら、きっぷの買い方を先に決めてから旅程を組むことをおすすめします。

コメント