JR北海道「黄色線区」上下分離案を撤回 花咲線・宗谷線など赤字8路線はどうなる

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JR北海道の綿貫泰之社長は2026年9月16日の定例会見で、花咲線や宗谷本線など赤字が続く8線区(通称「黄色線区」)について、今年4月に示していた「上下分離方式」による再建案を撤回すると発表しました。沿線自治体から強い反発を受けての方針転換です。これらの路線を使って北海道を旅する予定がある方にとっては、路線の将来を左右する重要な動きなので、何が起きたのかを整理しておきましょう。

何が発表されたのか

「黄色線区」とは、JR北海道が輸送密度をもとに分類している赤字ローカル線のうち、単独での維持が難しいとされる8つの線区を指します。具体的には、宗谷本線(名寄〜稚内)、根室本線・花咲線(釧路〜根室)、根室本線(滝川〜富良野)、室蘭本線(沼ノ端〜岩見沢)、釧網本線(東釧路〜網走)、日高本線(苫小牧〜鵡川)、石北本線(新旭川〜網走)、富良野線(富良野〜旭川)の8区間で、営業キロの合計は約925キロとJR北海道全体の路線網の4割近くを占めます。

JR北海道は今年4月、これらの線区について、線路などの鉄道施設を沿線自治体に譲渡し、維持管理費用を自治体側に負担してもらう「上下分離方式」を協議のたたき台として提示していました。しかし9月16日の会見で綿貫社長はこの提案を「深くおわび申し上げます」と陳謝したうえで、協議の対象から撤回すると表明しました。

自治体側の反発は強いものでした。花咲線沿線の浜中町は、上下分離が実施された場合の負担を独自に試算し「3年で行き詰まる」という結果を示しており、案が撤回されたことに安堵のコメントを出しています。宗谷本線・富良野線・石北本線の沿線にあたる旭川市も、地元負担を前提とせず3線区すべてが維持されるよう求めていました。北海道の鈴木直道知事は同日、「沿線の皆様との信頼関係はもう揺らいでいる状況だ」としたうえで、「残り半年でまとめることは率直に厳しい」と述べ、当初の期限内での決着が困難になっている現状を認めています。

なぜ上下分離が提案され、なぜ撤回に追い込まれたのか

背景には、JR北海道が国から受けている監督命令があります。国土交通省は2024年3月15日、2018年の経営改善命令に基づく中期経営計画(〜2023年度)で収支改善目標を達成できなかったことを理由に、JR北海道に監督命令を発出しました。この命令では、インバウンド需要の取り込み強化やコスト削減、非鉄道事業への投資拡大などとあわせて、単独では維持が難しい線区(黄色線区)について、2026年度末までに線区ごとの抜本的な改善方策を取りまとめるよう求めています。国は2024〜2026年度の中期経営計画期間中に1,092億円を支援していますが、そのうち黄色線区向けの設備投資や観光列車の取得に充てられるのは67億円にとどまり、路線の赤字を穴埋めするだけの規模ではありません。この期限が迫るなかで、JR北海道が自治体側にも費用負担を求める案をたたき台として持ち出したのが今回の経緯です。

その提案の重さを裏づけるのが、2026年7月3日に発表された2025年度の線区別収支です。黄色線区8路線の営業赤字は合計155億7,200万円で、前年度からさらに約7億8,000万円悪化しました。路線ごとに見ると、宗谷本線(名寄〜稚内)は輸送密度276人で営業係数793(前年度710)、花咲線(釧路〜根室)は輸送密度201人で営業係数732(同704)、根室本線(滝川〜富良野)は輸送密度427人で営業係数767(同705)、室蘭本線(沼ノ端〜岩見沢)は輸送密度303人で営業係数1,012(横ばい)と、いずれも100円の収入を得るために係数分の費用がかかっている計算になり、経営の重荷になっている実態がうかがえます。一方で日高本線(苫小牧〜鵡川)は営業係数676(前年度990)、釧網本線(東釧路〜網走)は531(同573)と改善した路線もあり、黄色線区のなかでも明暗が分かれています。

対照的に、同じ発表で札幌圏4線区(千歳線・室蘭本線白石〜苫小牧、函館本線小樽〜札幌・札幌〜岩見沢、旧札沼線桑園〜北海道医療大学)は、2014年度の公表開始以来初めて通年で黒字(営業利益9億73百万円)を達成しています。都市圏の黒字化にめどが立った一方で、地方部の赤字は拡大し続けているという非対称な状況こそが、今回の上下分離案が浮上した最大の理由です。JR北海道は会見にあわせて、札幌駅周辺開発や苗穂工場跡地、ラピダス関連産業が集積する千歳線沿線などを対象に、非鉄道事業を拡大するための新会社・投資ファンドを2026年内に設立する方針も示しました。都市部の資産を積極的に収益化する一方で、地方線区の費用負担は自治体に分散させようとしたことが、「観光列車の運行やPR活動で利用促進に協力してきたのに、追加負担まで求められるのか」という沿線の不信感につながったといえます。

なお、8路線のうち花咲線(釧路〜根室)は、日本最東端の根室市と釧路市を結ぶ、北方領土に最も近い鉄道路線でもあります。収支だけで見れば維持の合理性を見いだすのは簡単ではありませんが、この沿線に人が住み、経済活動が続いていること自体が、北方領土が日本の固有の領土であるという主張を実体のあるものにしているという見方もできます。根室側の人口減少が続く一方で、北方四島側ではロシアの実効支配のもとで人口が増加傾向にあるとされており、この非対称性は経営上の数字には表れてこない論点です。

旅行者への影響と今すべきこと

まず押さえておきたいのは、今回の発表は8路線がただちに廃止されるという話ではないということです。上下分離案は撤回されましたが、2026年度末(2027年3月)までに抜本的な改善方策を取りまとめるという期限そのものは変わっていません。今後は国・北海道・JR北海道・沿線自治体が参加する新しい協議の場に移り、10月には初会合が開かれる見通しです。ただし知事自身が「厳しい」と述べているとおり、期限内に全線区の結論が出るとは限らず、路線ごとに存続の見通しにも差があります。特に室蘭本線(沼ノ端〜岩見沢)や宗谷本線、花咲線は営業係数が悪化傾向にあり、日高本線や釧網本線と比べると長期的な不透明感が相対的に強い状況です。

これから北海道を旅行する方は、まず自分が使う予定の路線がこの8線区に含まれているかを確認しておくと安心です。花咲線や宗谷本線、石北本線などは車窓から湿原やオホーツク海沿岸の景色を楽しめる路線でもあり、観光列車が運行される線区もあります。協議の行方が定まっていない今のうちに一度乗っておく、という選択肢も十分にありえます。運賃や時刻表は当面変更されませんが、今後の協議の進み方によっては減便や運行形態の見直しが議論される可能性があるため、旅行の計画段階でJR北海道の公式サイトや自治体の広報から最新情報を確認する習慣をつけておくとよいでしょう。

ぴりか

地理や旅行が大好きな一般人。東京出身ですが、四国、九州など転々と移住し、今は北陸に住んでいます。学生時代に47都道府県を自転車で制覇。国内旅行業務取扱管理者の資格あり。JGC取得済み。

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