ANAは2026年8月18日、サウジアラビアのリヤド航空と包括的なパートナーシップの強化に向けた覚書を締結したと発表しました。両社のネットワークを組み合わせ、日本とサウジアラビアの間だけでなく、その先へ向かう旅客の利便性を高めることを目指す内容です。
現時点では覚書の段階で、具体的な商品として利用できるものはまだありません。ただし、検討されている内容を見ると、中東やアフリカへ向かう日本発の旅行に少なくない影響が出る可能性があります。
検討されているのはインターライン・コードシェア・マイル連携の3つ
発表によると、両社は次の3段階で協力関係を進める方針です。
まずインターライン契約とコードシェアの実施に向けた協議を進めます。インターライン契約が結ばれると、1枚の航空券で両社の便を乗り継げるようになります。出発地で最終目的地まで手荷物を預ける「スルーチェックイン」にも対応するため、乗り継ぎの手間が大きく減ります。
コードシェアについては、想定している対象が3つ挙げられています。
- リヤドを経由する中東・アフリカ路線
- 東京を経由するANAの国内線
- アジアの主要空港を経由するリヤド路線
さらに、マイレージプログラムの相互連携も視野に入れています。搭乗時のマイル積算や特典航空券の相互利用といったサービスを、段階的に導入することを目指すとしています。
リヤド航空はどんな会社か
リヤド航空は、サウジアラビアの政府系ファンドが完全に所有するフルサービスキャリアです。設立は2023年3月と新しく、2026年7月1日に初の一般旅客向けの商業運航を開始しました。
2030年までに世界100都市以上を結ぶ計画を掲げており、初のアジア路線としてリヤド〜バンコク/スワンナプーム線を2026年夏ダイヤで開設しています。東京/成田〜リヤド線については、早ければ2026年冬ダイヤでの直行便実現が中東メディアで報じられていますが、正式な就航発表はまだありません。
ANAが中東のパートナーを必要としていた理由
この提携の意味は、ANAの路線網に何が欠けているかを見るとわかりやすくなります。
ANAには中東のハブへ向かう自社路線がない
ANAは羽田〜ミラノ、羽田〜ストックホルム、羽田〜イスタンブールといった路線を運航していますが、イスタンブールはトルコであり、中東のハブとして機能するドバイ・ドーハ・アブダビには自社便がありません。
その結果、日本から中東やアフリカへ向かう需要の多くは、エミレーツ航空・カタール航空・エティハド航空といった湾岸の航空会社に流れてきました。ANAはこの市場で、自社の販売網に乗せられる商品を持っていなかったことになります。
同じ日に発表された2026年度下期の事業計画を見ても、ANAの国際線の増便先は成田〜ムンバイ、成田〜バンコク・シンガポール、成田〜パース、羽田〜ミラノです。中東は含まれていません。自社機材は需要が読める路線に集中させ、中東・アフリカは提携で押さえるという方針が、この2つの発表から読み取れます。
JALはすでに中東の受け皿を持っている
対比として見ておきたいのがJALの状況です。JALはワンワールドに加盟しており、同じ陣営にドーハを本拠とするカタール航空がいます。JALは羽田〜ドーハ線の自社運航を中東情勢の影響で2026年2月末から止めており、2026年度下期も通期で運休を継続しますが、その間の中東・アフリカ方面の需要はカタール航空とのコードシェアで受けています。
つまりJALは、自社機を飛ばさなくても中東ハブ経由の商品を売り続けられる状態にあります。ANAにはこれに相当する相手がいませんでした。リヤド航空との提携は、この差を埋めるための動きだと考えられます。
リヤド航空側にも、日本での販売網が必要だった
提携は一方通行ではありません。リヤド航空は2026年7月に商業運航を始めたばかりの会社で、日本市場での認知はほとんどありません。就航しても、日本国内で航空券を売る仕組みがなければ座席は埋まりません。
ANAと組めば、ANAの予約システムと販売網に乗ることができます。マイル連携が実現すれば、ANAのマイルを貯めている層に対して「リヤド航空に乗る理由」を提供できます。新規参入のキャリアが市場に食い込む方法として、現地の大手と組むのは定石です。
サウジアラビアは石油依存からの脱却を掲げ、観光を国家戦略の柱に据えています。政府系ファンドが完全所有する航空会社という成り立ちからして、リヤド航空は単独の企業戦略というより、国の観光・物流政策の一部として動いていると見るべきでしょう。日本という長距離の高単価市場を早い段階で押さえておく価値は高いはずです。
当面の現実解はバンコク経由になる可能性が高い
コードシェアの想定対象に「アジアの主要空港を経由するリヤド路線」が明記されている点は見逃せません。
リヤド航空の初のアジア路線はバンコクです。そしてANAは、成田〜バンコク線を2026年9月1日から週11往復に増便し、冬ダイヤではさらに週14往復(1日2往復)に増やします。両社の路線が重なるのがバンコクである以上、東京〜リヤドの直行便が就航する前でも、バンコク乗り継ぎという形で商品を作ることは可能です。
直行便の実現を待たずに、既存のネットワークの組み合わせで先に需要を作る。そういう順序で提携が動く可能性は高いと考えられます。逆に言えば、東京〜リヤドの直行便が就航する頃には、すでに乗り継ぎ需要が育っている状態を作っておきたいという意図もあるのではないでしょうか。
旅行者への影響と、現時点でできること
まず前提として、今回の発表は覚書の締結です。インターライン契約もコードシェアもマイル連携も、いずれも「協議を進める」「視野に入れる」という段階で、開始時期は示されていません。今すぐ予約方法が変わるわけではありません。
そのうえで、実現したときに何が変わるかを整理しておきます。
インターライン契約が結ばれれば、日本からサウジアラビア・中東・アフリカへ向かう際に、1枚の航空券で両社の便を乗り継げるようになります。手荷物も出発地で最終目的地まで預けられます。現在は別々に航空券を買って乗り継ぐ場合、前の便が遅れて次の便に乗れなくても補償されませんが、1枚の航空券であれば運送の責任が通しでかかります。この違いは実務上とても大きいものです。
マイル連携が実現すれば、リヤド航空に乗ってANAのマイルを貯めたり、ANAのマイルでリヤド航空の特典航空券を取ったりできるようになる可能性があります。ただし提携によってはマイル積算率が低く設定されることもあり、条件は発表を待つ必要があります。
中東・アフリカ方面への渡航を近いうちに予定している方は、当面はこれまでどおりエミレーツ航空・カタール航空・エティハド航空などの既存の選択肢で計画してください。ANA便名で買える中東経由の商品が出てくるのは、早くても協議がまとまってからになります。
サウジアラビアそのものを目的地として検討している方は、渡航要件(ビザ・入国条件)が随時変わりますので、予約前に必ず最新の情報を確認してください。
まとめ
ANAとリヤド航空は2026年8月18日、包括的なパートナーシップの強化に向けた覚書を締結しました。インターライン契約とコードシェアの協議を進め、マイレージプログラムの相互連携も視野に入れています。
背景にあるのは、ANAが中東のハブへ向かう自社路線を持っておらず、日本発の中東・アフリカ需要を湾岸の航空会社に譲ってきたという構図です。JALがワンワールドのカタール航空という受け皿を持っているのに対し、ANAはその役割を担う相手を新たに確保したことになります。
現時点では具体的な商品はまだありません。中東・アフリカへ近く渡航する方は従来どおりの手配が必要です。ANAのマイルを中心に貯めている方や、サウジアラビアへの渡航を将来的に考えている方は、続報を追っておく価値があります。


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