JR北海道が、根室本線の愛称「花咲線」(釧路〜根室間)の一部列車に、2026年7月1日から指定席を新設すると発表しました。対象になるのは2号車の海側座席の一部で、座席指定券は6月19日11時から発売が始まっています。普通列車・快速列車の車両に指定席が設けられるのは珍しく、車窓から太平洋やオホーツク海方面の景色を眺めながら旅したい人にとって、座席を確実に確保できる新しい選択肢になります。
花咲線という路線について
花咲線という愛称は、根室市内の「花咲」という地名にちなんでいます。この愛称の由来となった花咲駅自体は、利用者の少なさを理由に2016年3月に廃止されており、現在は駅舎も解体されています。釧路から根室まで約135kmを走り、太平洋に面した海岸線や湿原、牧草地帯の景色が車窓から楽しめる路線で、終点の根室は日本最東端の鉄道駅がある町として、納沙布岬への観光拠点にもなっています。
花咲線「海側指定席」の概要
実施期間は2026年7月1日(水)から8月31日(月)までの夏季限定です。対象となるのは以下の4本で、いずれも釧路〜根室間を結ぶ列車です。
| 列車名 | 発駅・発時刻 | 着駅・着時刻 | 編成 |
|---|---|---|---|
| 「地域探索鉄道号」 | 釧路8:21発 | 根室10:53着 | キハ54形+キハ40形の2両 |
| 快速「ノサップ」 | 釧路11:13発 | 根室13:26着 | キハ54形2両 |
| 快速「はなさき」 | 根室11:12発 | 釧路13:23着 | キハ54形+キハ40形の2両 |
| 「地域探索鉄道号」 | 根室13:36発 | 釧路16:03着 | キハ54形2両 |
指定席は各列車2号車の海側座席の一部に設定されます。キハ40形を連結する列車はボックスシート部分、キハ54形2両編成の列車はクロスシート部分が対象です。
購入方法と料金
座席指定券は乗車券に加えて事前購入が必要です。
| 区分 | 料金 |
|---|---|
| 大人 | 1,000円 |
| こども | 500円 |
販売開始は2026年6月19日11時からで、全国の主な駅のみどりの窓口や指定席券売機、主な旅行会社、「えきねっと」で購入できます。普通列車に指定席券売機経由で乗れるという点でも、これまでの花咲線の利用方法とは一線を画す取り組みです。
花咲線が置かれている厳しい現状
数字で見ると、花咲線の状況はかなり深刻です。輸送密度(1キロメートルあたり1日何人が乗っているかを示す指標)は1975年度には1,879人でしたが、2023年度には221人まで落ち込んでいます。国土交通省は2022年の有識者検討会の提言を踏まえ、輸送密度1,000人未満の線区を、国主導で存廃を議論する「再構築協議会」設置の目安としています(ラッシュ時1時間あたりの利用者が大型バス10台分=500人以上ある場合は対象外)。花咲線の221人という数字は、この目安をさらに下回る水準です。
収支も厳しく、2023年度の花咲線(釧路〜根室間)の収入は1億7,500万円、費用は14億7,800万円で、差額の13億円超をJR北海道が負担している状態です。沿線の釧路市・根室市などの人口も、JR北海道が発足した1987年と比べて2023年時点で28.9%減少しており、2030年には37.7%減まで進む見通しが示されています。根室市単独では人口が約2.1万人(2025年1月時点)まで減り、過去40年でおよそ半減したというデータもあります。
なぜ今、花咲線に指定席を導入するのか(事業者の意図)
このような状況の中でJR北海道が掲げているのは、「徹底した利用促進」と「徹底したコスト削減」を両立させ、令和8年度末までに事業の抜本的な改善方策をまとめるという方針です。2025年3月のダイヤ改正で利用者が極端に少なかった早朝の快速「はなさき」を廃止した一方、海側指定席や夏季増結のような観光需要を取り込む施策には力を入れています。
これは「儲かる部分を伸ばし、儲からない部分を削る」という単純な話ではなく、限られた経営資源をどこに振り分けるかという選択の結果です。指定席にすれば、観光客は確実に良席を確保できる代わりに追加料金を支払うことになり、JR北海道にとっては列車1本あたりの収入を増やす手段になります。普通列車を観光列車的に運用するという花咲線の「線区特性」そのものを、収益源として明確に位置づけ直したのが今回の取り組みだと言えます。
維持する理由をどう考えるか(私見)
ここまでの数字だけを見れば、花咲線を交通機関として維持する経済的な合理性は乏しいと言わざるを得ません。輸送密度は「再構築協議会」設置の目安となる1,000人の5分の1以下で、年間の損失は13億円を超えます。沿線人口も減り続けており、この傾向が反転する材料は見当たりません。純粋な交通政策の観点に立てば、バスへの転換を含めた検討が進むのは自然な流れだと考えられます。
それでも花咲線が今なお維持されている背景には、輸送密度や収支とは別の理由があるのではないかと筆者は考えています。北海道が2018年に策定した「北海道交通政策総合指針」は、花咲線を「北方領土返還運動の拠点である北方領土隣接地域を結ぶ唯一の路線」と位置づけています。根室は北方領土に最も近い日本の自治体であり、この地域に鉄道という社会基盤が存在し、人や経済活動が行き来し続けているという事実そのものに意味があるという見方です。
これは軍や兵器を輸送するという話ではありません。北方領土に隣接する地域で日本人が居住し、経済活動を続けていること自体が、北方領土が日本固有の領土であるという主張を実体のあるものにする、という意味での「国防」に近いと筆者は考えます。北方四島側では2010年代以降、ロシアの実効支配のもとで人口が増加傾向にあるとされる一方、根室側の人口は40年で半減しています。この非対称な人口動態が続けば、「隣接地域の活力」という主張の説得力そのものが失われていくという懸念は十分にあり得る話です。花咲線への指定席導入や観光列車化の取り組みは、単独では輸送密度や収支を大きく好転させる力を持ちませんが、根室という土地に人を呼び込み続けるための小さな手段の一つとして見ることもできるのではないでしょうか。
旅行者が知っておきたい利用のポイント
海側指定席を確実に取りたい場合は、6月19日以降できるだけ早く「えきねっと」または最寄りのみどりの窓口で予約することをおすすめします。夏休み期間やお盆と重なる時期は需要が集中しやすく、特に快速「ノサップ」「地域探索鉄道号」の海側席は埋まりやすいと考えられます。
座席の向きにも注意が必要です。釧路発の列車は進行方向の右側が海側、根室発の列車は進行方向の左側が海側になります。チケットを買う際に、自分が向かう方向と座席番号の組み合わせを駅の窓口で確認しておくと安心です。
指定席を使わない場合でも、花咲線そのものは自由席で乗車できます。指定席はあくまで「海側の良席を確実に取りたい人向けの追加サービス」という位置づけで、これまでどおり普通車自由席や立席での利用も可能です。日程に余裕がある人は、あえて指定席を使わずに空いている海側席を探すという選択肢も残っています。
まとめ
花咲線の海側指定席は、2026年7月1日から8月31日までの夏季限定で、釧路〜根室間の4本の列車に設定されます。料金は大人1,000円・こども500円で、乗車券に加えて事前購入が必要です。輸送密度が「再構築協議会」設置の目安となる1,000人の5分の1以下まで落ち込み、年間13億円超の損失を抱える花咲線にとって、これは観光需要を取り込みながら収益を確保しようとするJR北海道の取り組みの一つです。経済合理性だけで見れば厳しい現実がある一方、北方領土に隣接する地域に鉄道という社会基盤を維持すること自体に意味を見出す立場もあります。観光目的で根室・釧路方面を訪れる人は、6月19日以降に「えきねっと」やみどりの窓口で早めに海側指定席を確保しておくことをおすすめします。

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