四国の観光列車に乗ってみたいと思いながら、予約のハードルの高さで諦めた経験はないでしょうか。JR四国は2026年7月31日、観光列車「伊予灘ものがたり」と「四国まんなか千年ものがたり」のグリーン車指定席を、JR西日本のネット予約サービス「e5489」で予約できるようにすると発表しました。2026年10月2日の利用分からで、予約の受付は9月2日午前10時に始まります。
これまでこの2列車は、みどりの窓口か旅行会社の店頭に足を運ばなければ席を確保できませんでした。人気の列車で、乗車日1か月前の午前10時に窓口が混み合うことも珍しくありません。その仕組みが、ようやく変わります。
発表された内容
対象となるのは「伊予灘ものがたり」と「四国まんなか千年ものがたり」の2列車です。どちらもグリーン車指定席の予約がe5489で可能になります。
「伊予灘ものがたり」は松山駅を起点に、伊予大洲駅・八幡浜駅とのあいだを土日祝を中心に1日4便運転している列車です。2代目となる現在の車両は3両編成で、2022年4月2日にデビューしました。「四国まんなか千年ものがたり」は香川県の多度津駅と徳島県の大歩危駅を土讃線経由で結ぶ列車で、金曜・土曜・日曜・祝日を基本に1日1往復しています。下りは「そらの郷紀行」、上りは「しあわせの郷紀行」の愛称が付いています。
利用開始は2026年10月2日の乗車分からで、予約の受付開始は2026年9月2日午前10時です。予約は専用のWebサイトから行う形になり、このサイトは9月中に各列車の公式ホームページからリンクされる予定です。
すべての座席が対象になるわけではありません。「伊予灘ものがたり」3号車「陽華の章」にある貸切個室「Fiore Suite」は、今回の対象から外れています。また、e5489の「事前申込サービス」には対応していないため、発売開始と同時に自分で操作して席を取りにいく必要があります。
なお、3つあるものがたり列車のうち「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」については、2025年10月からすでにe5489での取り扱いが始まっていました。今回の発表で、ものがたり列車3列車がすべてネット予約に対応することになります。
JR四国がe5489を選んだ理由を考える
ここで気になるのが、JR四国がなぜ自社の予約システムを整えず、JR西日本のe5489に相乗りする形を選んだのかという点です。
JR四国の経営状況を見ると、その答えが見えてきます。2025年度の連結決算は営業収益788億円で連結決算の公表を始めて以来の最高額となり、当期純利益49億円で3期連続の黒字を確保しました。ただしこの好調さを支えているのは、駅ビルやホテル、不動産、M&Aで取得した企業といった鉄道以外の事業です。単体の鉄道事業だけを取り出すと、営業収益281億円に対して営業損益は137億円の赤字でした。前年度の141億円の赤字からは改善しているものの、依然として大きな赤字が続いています。
この状況で、自前の予約システムを一から構築して維持するのは現実的ではありません。開発費だけでなく、決済、セキュリティ、多言語対応、障害対応まで含めた継続的な負担がのしかかります。すでに全国規模で使われているe5489に載せるほうが、投資額に対して得られる効果ははるかに大きいと考えられます。
販路を関西・中国地方に置く戦略
もうひとつ、e5489を選んだことには販路の面での意味があります。e5489はJR西日本のネット予約サービスであり、日常的に使っているのは関西圏や中国地方に住む人たちです。四国の観光列車を、この層が普段見ている画面に並べられる意味は小さくありません。
四国への観光客の流れを考えると、この判断には合理性があります。瀬戸大橋線を経由して岡山から入る動線は四国観光の主軸のひとつで、その手前にいるのが関西・中国地方の人たちです。新幹線で岡山まで来て、そこから四国へ渡る旅程を組む人にとって、新幹線もものがたり列車も同じe5489で予約できるのは便利です。JR四国にとっては、自社の知名度だけでは届かない層に商品を差し出せることになります。
先行して「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」を2025年10月からe5489に載せ、約1年の運用を経て残り2列車を追加した点も見逃せません。いきなり3列車すべてを移すのではなく、1列車で運用上の問題点を洗い出してから広げる進め方をしています。窓口を前提に組み立てられていた予約・発券・食事手配の流れをネットに合わせて作り直すには、それなりの検証が必要だったのではないでしょうか。
食事とチケット受け取りが残した課題
一方で、今回のネット予約対応は完全なチケットレス化ではありません。ここには観光列車ならではの事情があります。
まず、乗車前に必ず駅できっぷを受け取る必要があります。車内での受け取りはできません。受け取れる駅は限られるため、事前に確認しておかなければ、席は取れているのに乗れないという事態になりかねません。「観光列車チケットレス」で購入した場合は受け取りが不要ですが、その場合も乗車券は別途買う必要があります。
さらに大きいのが食事の扱いです。事前予約制の食事はe5489では予約できず、別に手配しなければなりません。ものがたり列車の魅力の中心は地元の食材を使った食事にありますから、実質的には「席はネットで取れるが、食事は別ルート」という二段構えが残ります。
これは怠慢というより、構造的な問題と考えられます。ものがたり列車の食事は地元の料理店が担っており、座席の在庫管理とは別系統で動いています。座席数と食事数が一致しないうえ、列車ごと・便ごとに提供元も内容も違います。この部分まで座席予約システムに統合するには、JR四国の側だけでなく調製元との仕組みづくりが必要です。時間がかかっている理由はここにあるのではないでしょうか。
旅行者への影響と、予約で気をつけたいこと
利用者にとって最も大きい変化は、四国まで行かなくても、また窓口が開いている時間に合わせなくても、席を取りにいけるようになることです。これまでは乗車日1か月前の午前10時に、みどりの窓口か旅行会社に並ぶ必要がありました。四国から遠い地域に住んでいる人ほど不利な仕組みで、旅行会社経由だと手数料が上乗せされることもありました。
10月2日の乗車分から予約できるようになりますが、実際の受付開始は9月2日午前10時です。予約可能なのは乗車日の1か月前からという点は変わらないため、10月2日以降の乗車日それぞれについて、その1か月前の午前10時が勝負どきになります。
注意点をいくつか挙げておきます。ひとつは「事前申込サービス」が使えないことです。e5489には発売開始前に申し込みを登録しておく機能がありますが、ものがたり列車では対応していません。発売時刻にログインした状態で待機し、自分で操作する必要があります。
もうひとつ、e5489の予約画面に表示される「座席表」の並びは、実際の車内の座席配置と異なるとJR四国が明記しています。海側の席を狙うといった選び方をする場合、画面の並びをそのまま信じると意図と違う席になる可能性があります。各列車の公式ホームページに掲載されている実際の座席配置図を見ながら選ぶのが確実です。
食事については、席を確保したらすぐに別途申し込む流れを想定しておきましょう。列車によって申し込み先も締切も異なります。席だけ取って安心していると、食事の締切を過ぎてしまうことがあります。
きっぷの受け取りも忘れないでください。乗車当日にいきなり列車に乗ることはできません。旅程を組む際は、受け取り可能な駅と、そこに立ち寄る時間をあらかじめ計算に入れておくと安心です。
まとめ
今回のe5489対応は、四国から離れた地域に住んでいて、これまで窓口に行けないことを理由にものがたり列車を諦めていた人にとって、特に価値のある変化です。関西や中国地方から新幹線で岡山を経由して四国に入る旅程を考えている人なら、新幹線と一緒に予約できる利便性も加わります。
ただし食事の手配ときっぷの受け取りは従来どおり別に必要で、「スマートフォンだけで完結する」段階には至っていません。予約が取れた時点で終わりではなく、食事の申し込みと受け取り駅の確認までを一連の作業として済ませておくことをおすすめします。


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