カンタス航空は、シドニーとロンドンを無着陸で結ぶ世界初の直行便を2027年10月に開設すると発表しました。超長距離飛行計画「プロジェクト・サンライズ」の第1弾路線で、航空券の販売は2027年2月に開始される予定です。距離は大圏距離で1万7,000kmを超え、飛行時間は最大22時間に達する見通しで、実現すれば商業定期路線として世界最長になります。現在の経由便と比べて、旅程を最大4時間短縮できるといわれています。
「プロジェクト・サンライズ」とは何か
プロジェクト・サンライズは、カンタス航空がオーストラリア東海岸とロンドン・ニューヨークを無着陸で結ぶことを目指す計画です。2017年に立ち上げられ、2019年12月にエアバスA350-1000をベースとした専用機の導入を決めましたが、新型コロナウイルスの感染拡大で計画は一時凍結されました。2022年2月に凍結が解除され、同年5月にA350-1000ULR(超長距離型)12機の確定発注に至っています。
この専用機には2万リットルの追加燃料タンクが搭載され、1万6,000km以上、最大22時間の連続飛行が可能になります。座席数は4クラス構成で計238席に抑えられ、通常の長距離国際線よりゆとりのある客室が確保される予定です。シドニー〜ロンドン線が第1弾として開設されたのち、次の路線としてシドニー〜ニューヨーク線が続くことが決まっています。
北極圏をかすめる「北極ルート」の検討
シドニー〜ロンドン線の飛行経路として、カンタス航空は太平洋を北上して北極圏をかすめる「北極ルート(Polar Route)」を検討していると報じられています。シドニーから太平洋を北へ進み、日本の東側を通過してアラスカ北部を抜け、北極点のすぐ南をかすめたのちスコットランド上空を経て北からロンドンに進入するという経路です。従来カンタス航空が南極周りでサンティアゴ線などに使ってきた南半球の極ルートとは反対方向にあたり、北半球側で新たに開拓されるルートになります。実際にどの経路が採用されるかは、季節や偏西風の状況によって変わる可能性があります。
カンガルールートの歴史、4日間から無着陸へ
シドニー〜ロンドン線は、オーストラリアとイギリスを結ぶ「カンガルールート」の歴史の延長線上にあります。カンタス航空は1947年、新たに導入した旅客機ロッキード・コンステレーションでシドニーとロンドンを結ぶ初の自社一貫運航を開始しました。当時の経路はダーウィン、シンガポール、カルカッタ(現コルカタ)、カラチ、カイロ、トリポリを経由し、ロンドンまで4日間を要するものでした。
その後ジェット化が進み、経由地は徐々に減っていきます。大きな転換点になったのが2018年3月のパース〜ロンドン・ヒースロー線です。787-9を使い、商業飛行として史上初めてオーストラリアとヨーロッパを無着陸で結び、距離約1万4,500km、飛行時間約17時間というルートを実現しました。経由便より3時間ほど短縮され、当時「カンガルールートの無着陸化」として大きく報じられました。
シドニー〜ロンドン線は、パースよりさらに東に位置するシドニーから、文字どおりオーストラリア東海岸とヨーロッパを無着陸で結ぶ初めての路線になります。1947年に4日間かかっていた行程が、2027年には1日かからずに完結することになります。
なぜ「サンライズ」と呼ぶのか、戦時中の「ダブルサンライズ」便
「プロジェクト・サンライズ」という名前は、第二次世界大戦中にカンタス航空が運航した「ダブルサンライズ」便にちなんでいます。1942年にシンガポールが陥落し、オーストラリアとイギリスの航空路が途絶えたため、カンタス航空は1943年7月、英空軍からレンドリースで借り受けたPBYカタリナ飛行艇5機を使い、西オーストラリア州パース近郊からセイロン(現スリランカ)のコッガラ湖までインド洋を無着陸で横断する便を開設しました。
距離は直線で約5,700kmと、シドニー〜ロンドン線の3分の1程度ですが、当時のカタリナ飛行艇の巡航速度はジェット機よりはるかに遅く、1回の飛行に27時間から33時間を要しました。日本占領下の海域を避けるため夜間飛行を中心に、無線も使わずコンパスと星を頼りに航法を行い、5機の機体はそれぞれ航法に使う星の名前(リゲル・スター、スピカ・スター、アルタイル・スター、ベガ・スター、アンタレス・スター)から命名されています。乗客・乗員は西へ向かう飛行中に2度の日の出を見ることになり、これが「ダブルサンライズ」という名前の由来になりました。1943年から1945年の終戦までに271回運航され、当時のカタリナ飛行艇による無着陸飛行は、飛行時間としては今なお歴史上最長の商業飛行記録として語られています。
80年余りを経て、当時の何倍もの距離をはるかに短い時間で結ぶ無着陸便が実現することになり、「サンライズ」の名前には、その挑戦の系譜を継ぐという意味が込められているといえます。
どれほど凄いことなのか、距離で比べる
シドニー〜ロンドン線の規模感は、他の長距離路線と比較するとわかりやすくなります。
| 路線 | 距離 | 飛行時間 | 備考 |
|---|---|---|---|
| カンタス シドニー〜ロンドン(2027年開設予定) | 約17,000km | 最大22時間 | 実現すれば商業定期路線で世界最長 |
| シンガポール航空 シンガポール〜ニューヨーク | 約15,300km | 約18〜19時間 | 現行の世界最長定期路線 |
| カンタス パース〜ロンドン(2018年開設) | 約14,500km | 約17時間 | 豪州〜欧州初の無着陸路線 |
| ダブルサンライズ便 パース〜セイロン(1943〜45年) | 約5,700km | 27〜33時間 | カタリナ飛行艇、当時の最長飛行時間記録 |
距離だけで見ればシンガポール〜ニューヨーク線(現行世界最長)を上回り、飛行時間も現行の旅客機による定期路線では最長クラスになります。一方でダブルサンライズ便は、距離はシドニー〜ロンドン線の3分の1程度にすぎないにもかかわらず、現代の直行便よりも長い時間がかかっていました。現代のジェット機がいかに速く、そしてプロジェクト・サンライズの距離・時間がいかに常識を超えているかが、この対比からうかがえます。
もし東京からだったら、どこまで届くのか
A350-1000ULRが持つ「1万6,000km以上、最大22時間」という航続力を東京に当てはめると、世界のどこまで届くのか考えてみます。
| 東京からの都市 | 大圏距離 | 現状 |
|---|---|---|
| ロンドン | 約9,600km | 既に直行便あり(JAL・ANA) |
| ニューヨーク | 約10,900km | 既に直行便あり |
| マドリード | 約10,800km | 既に直行便あり(イベリア航空) |
| サンティアゴ(チリ) | 約17,200km | 直行便なし。シドニー〜ロンドンとほぼ同距離 |
| ブエノスアイレス | 約18,400km | 直行便なし |
| サンパウロ | 約18,500km | 直行便なし |
| モンテビデオ(ウルグアイ) | 約18,600km | 直行便なし。地球上で東京から最も遠い主要都市の一つ |
この表からわかるのは、東京はオーストラリアほど地理的に孤立していないという点です。ロンドンやニューヨークは東京からすでに無着陸で結ばれており、プロジェクト・サンライズ専用機ほどの航続力を必要としません。東京から見て本当にこの専用機の実力が試される行き先は、地球の反対側に近い南米大西洋岸の都市、ブエノスアイレス・サンパウロ・モンテビデオです。これらの都市は約1万8,400km〜1万8,600kmと、シドニー〜ロンドン線(約1万7,000km)をも上回り、A350-1000ULRが実証した航続距離の限界に近いか、それを超える可能性があります。
つまり、東京を起点にした場合、プロジェクト・サンライズ級の航続力をもってしても無着陸では届きにくい場所が、地球上でほぼ唯一南米大西洋岸に残ることになります。現在、日本から南米へ渡るには北米や中東、欧州を経由するのが一般的で、移動には30時間前後かかることも珍しくありません。東京〜南米間の無着陸化は、シドニー〜ロンドン線以上に厳しい挑戦になるといえそうです。
まとめ
カンタス航空のシドニー〜ロンドン無着陸直行便は、1947年に4日間を要したカンガルールートの歴史と、戦時中にカタリナ飛行艇で27時間以上かけてインド洋を渡った「ダブルサンライズ」便の系譜の先にある到達点です。2027年10月の開設が実現すれば、距離・飛行時間ともに商業定期路線として記録的な規模になります。東京を起点に同じ航続力を当てはめてみると、ロンドンやニューヨークはすでに射程内にある一方、本当の限界に近づくのは南米大西洋岸の都市であり、世界の「遠さ」の感覚がいかに地理的な位置によって変わるかがよくわかります。

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