ANA・JR西日本が鳥取県3市町の二地域居住を支援、航空券とWESTERポイントを優待
ANAと JR西日本は2026年10月21日、鳥取県内の米子市・智頭町・北栄町の3市町を対象に、「二地域居住」を試したい人の移動を支援する連携を始めました。関東から航空機で訪れる人にはANA SKYコイン、関西から鉄道で訪れる人にはWESTERポイントを、それぞれ移動費の負担軽減として付与する仕組みです。実証期間は2026年10月21日から2027年2月28日までで、対象は国土交通省の二地域居住先導的プロジェクト実装事業に基づく「お試し二地域プラン」の参加者です。航空と鉄道という競合しがちな2つの移動手段が、同じ地域振興の枠組みの中で役割分担する珍しい取り組みのため、仕組みと背景を整理します。
米子市・智頭町・北栄町で何がもらえるのか
優待内容は市町ごとに異なり、どの交通手段で訪れるかによっても付与額が変わります。
| 対象市町 | 関東からの航空優待(ANA SKYコイン) | 関西からの鉄道優待(WESTERポイント) |
|---|---|---|
| 米子市 | 羽田~米子線 往復20,000コイン | 新大阪~米子間(新幹線+特急やくも利用) 往復9,800ポイント |
| 智頭町 | 羽田~鳥取線 往復20,000コイン | 大阪~智頭間(特急スーパーはくと利用) 往復5,200ポイント |
| 北栄町 | 羽田~鳥取線・米子線 往復15,000コイン | 大阪~由良間(特急スーパーはくと利用) 往復6,200ポイント |
付与されるのは移動費そのものの割引ではなく、ANA SKYコインやWESTERポイントという各社のポイントです。ANA SKYコインは次回以降のANA国内線・国際線の予約に使えるポイントで、WESTERポイントはJR西日本のJ-WESTポイントアプリ上で貯まり、特急券やきっぷの購入に充当できます。いずれも現地での滞在中に使う生活費の補助ではなく、「もう一度、あるいは次の機会に同じ地域へ来るための移動費」を支援する設計になっている点が特徴です。
鉄道優待の金額が市町によって異なるのは、使用する特急列車と距離の違いによるものです。新大阪~米子間は新幹線と特急やくもを乗り継ぐ最も長距離の行程になるため、他の2町より高いポイントが設定されています。
なぜ今、ANAとJR西日本が鳥取で組むのか
国の制度変更が後押しした二地域居住支援
二地域居住への支援策が広がっている背景には、2024年5月に成立し同年11月1日に施行された改正広域的地域活性化基盤整備法(通称・二地域居住促進法)があります。この法律は市町村が「特定居住促進計画」を策定できるようにし、二地域居住者向けの空き家改修やコワーキングスペース整備への支援、二地域居住等支援法人の指定制度などを新設しました。国はこの法人の指定数を施行後5年間で累計600法人とする目標を掲げており、民間事業者が二地域居住支援に参入しやすい制度環境が整ってきています。
今回の取り組みも、この流れの中で国土交通省が採択した「二地域居住先導的プロジェクト実装事業」を活用した実証という位置づけです。自治体側の負担の一部を国の補助でまかなえる時期であることが、米子市・智頭町・北栄町という人口規模の異なる3市町が同時に動き出した理由のひとつと考えられます。
ANAの狙いは「空のネットワーク」を地方創生事業に転用すること
ANAあきんどは2025年9月に鳥取県・高知県・佐賀県など16自治体・団体と「ANA二地域居住等推進コンソーシアム」を設立し、同年10月に専用ポータル「ANAの二地域居住 BLUE SKY LIFE」を開設しました。鳥取県とは2026年9月にも「ふるさと住民登録制度」のモデル事業で連携を発表しており、今回のJR西日本との連携は、2026年4月30日に両社が締結した「西日本エリアの社会課題解決に向けた連携強化」協定を具体化した取り組みにあたります。
ANAにとっての狙いは、単に空港と地方を結ぶ輸送量を増やすことだけではありません。人口減少地域の自治体に対して「移動手段の提供者」から「関係人口創出事業のパートナー」へと立ち位置を広げることで、航空需要が構造的に伸びにくい地方路線に、新しい収益機会を作り出す狙いがあると考えられます。国内線の需要が平日・観光需要だけに依存すると波動が大きくなりますが、二地域居住者という「定期的に往復する利用者層」を育てられれば、路線の安定的な需要基盤になり得ます。
JR西日本の狙いは特急「やくも」「スーパーはくと」への送客
JR西日本側の思惑としては、米子線・智頭線方面で運行する特急「やくも」「スーパーはくと」の利用促進が大きいと考えられます。これらの在来線特急は、並行する高速道路網の整備や人口減少によって利用が伸び悩んでいる区間を抱えており、新幹線接続による都市部からの送客を増やすことは経営上の重要テーマです。WESTERポイントという自社の会員基盤に乗客を取り込む形にしているのも、一度きりの優待で終わらせず、J-WESTポイントアプリを通じて継続的な利用につなげたいという意図がうかがえます。
航空とJRは、羽田~鳥取・米子間という同じ需要を奪い合う競合関係にもなり得ますが、今回の取り組みは「関東からは空路、関西からは鉄道」という地理的な役割分担を明確にすることで、競合よりも協調を優先した設計になっています。関西圏にとって鳥取県は鉄道で日帰りも可能な距離にあり、関東圏にとっては空路が現実的な選択肢になるため、両社にとって無理のない分担といえます。
二地域居住を検討する人への影響と対策
この取り組みの対象は、国の実証事業に登録した「お試し二地域プラン」の参加者です。単なる旅行者が鳥取県を訪れただけでは優待の対象にはならないため、興味がある場合はまず「ANAの二地域居住 BLUE SKY LIFE」の特設サイトで対象3市町のプログラム内容と申込方法を確認する必要があります。実証期間は2027年2月28日までとなっており、期間終了後に優待が継続されるかどうかは現時点で未発表です。
移住や二拠点生活を具体的に検討していない人にとっても、この仕組みは「地方の移動費がどの程度支援されると定住検討のハードルが下がるか」を示す実例として参考になります。往復の交通費が数千円から2万円相当のポイントで補われることで、月1回程度の往来にかかる負担が大きく軽減される計算です。鳥取県への旅行や二拠点生活に関心がある人は、通常の旅行プランとは別に、こうした自治体連携の実証プログラムが他地域でも広がっていく可能性があるため、気になる地域があれば自治体や航空会社・JR各社の二地域居住関連ページを定期的に確認しておくとよいでしょう。


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