ANAと欧州2社が航空貨物で提携強化、日欧路線はどう変わるか

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全日本空輸(ANA)、日本貨物航空(NCA)、ルフトハンザ・カーゴ、スイス インターナショナル エアラインズの4社が、2026年11月6日に日本と欧州間の航空貨物輸送で協力関係を強化する覚書(MOU)を締結しました。貨物のニュースと聞くと旅行とは縁がないと感じるかもしれませんが、実は旅客便のネットワークと貨物事業は同じ飛行機の収益を支え合う関係にあります。国際線の増便や新規就航の判断には、座席の売れ行きだけでなく貨物スペースの需要も大きく関わっており、貨物事業が強くなるほど路線そのものが維持しやすくなるという構造があります。この記事では、今回の覚書の内容と、ANAがなぜ今このタイミングで欧州2社との関係を強めるのかを整理し、旅行者として今後どこに注目すればよいかを考えます。

今回の覚書で発表された内容

今回の覚書は、ANA、NCA、ルフトハンザ・カーゴ、スイス インターナショナル エアラインズの4社が、日本と欧州間の航空貨物市場における協力関係を強化するために締結したものです。4社はそれぞれのネットワークや貨物の取扱ノウハウを補完し合い、貨物のジョイントベンチャー(共同事業)を含む新たな提携拡大に向けた検討を今後開始すると発表しています。

この4社の組み合わせには経緯があります。ANAとルフトハンザ・カーゴは2014年から日欧市場を対象とした貨物ジョイントベンチャーを運営し、日本と欧州を結ぶワンストップの輸送サービスなどを提供してきました。しかし2023年9月、ANAホールディングスが貨物事業の体制を見直したことに伴い、この提携は一時中断していました。今回の覚書は、その2社の関係を土台にしつつ、日本側にNCA、欧州側にスイス インターナショナル エアラインズを新たに加えた4社体制で、提携を再構築する動きといえます。

なお、ANAホールディングスは2026年3月27日にグループ内の貨物事業会社3社(ANA Cargo、日本貨物航空、NCA Japan)を2027年4月1日に統合する方針を発表し、同年9月14日には統合後の新社名を「ANA Nippon Cargo Airlines」、ブランド名を「ANA Nippon Cargo」とすることを明らかにしています。これはANAグループ内部の組織再編であり、今回11月6日に発表されたルフトハンザ・カーゴやスイス インターナショナル エアラインズという外部の欧州企業との提携強化とは別の話です。グループ内の体制を整理する動きと、グループ外のパートナーとの関係を広げる動きが、同じ時期に並行して進んでいると捉えるのが実態に近いでしょう。

なぜANAは今、欧州2社との貨物提携を強化するのか

貨物事業の収益構造が大きく動いている

ANAホールディングスの2026年度第1四半期(4月から6月)の決算では、ANAとNCAを合わせた国際貨物事業の売上高が前年同期比157.2パーセント増の1087億円となりました。貨物の取扱重量は64パーセント増、単価も57パーセント増という伸びを見せています。もっとも、この伸びの内訳を見ると、中国発のeコマース貨物の需要は減少しており、単価自体は前年を下回る傾向にあるとされています。その一方でアジアと北米・欧州を結ぶ貨物需要を取り込むために、成田とシカゴを結ぶ路線の増便などネットワークの最適化を進めている段階です。つまりANAの貨物事業は、中国発の小口eコマース荷物に依存した成長から、より広いアジア域内・域外をつなぐネットワーク型の貨物輸送へと軸足を移そうとしている最中にあります。

ANAホールディングスは2026年度から2028年度の中期経営戦略で、2030年度までに国際航空貨物の事業規模を1.3倍にする目標を掲げ、NCAとの統合によるシナジー効果300億円の創出を目指すとしています。NCAは2025年8月にANAが全株式を取得して完全子会社化した会社で、ボーイング747-8F型の貨物専用機を8機保有し、アムステルダム・ミラノ・フランクフルトなど欧州に拠点を持っています。ANAの旅客機が運ぶベリー(床下)貨物と、NCAの大型貨物専用機という異なる特性を組み合わせることで、荷物の種類や量に応じた輸送手段を選べる体制を整えようとしているのが現在のANAグループの戦略です。

なぜルフトハンザ・カーゴとスイス インターナショナル エアラインズなのか

ANAとルフトハンザ、スイス インターナショナル エアラインズはいずれもスターアライアンスに加盟しており、旅客便では長年マイル提携や共同運航を重ねてきた関係にあります。貨物事業で同じ陣営の企業と組むことは、旅客側で築いた信頼関係やシステム連携をそのまま貨物輸送にも応用できるという意味で、合理性の高い選択です。似た構図は競合する航空連合でも見られます。日本航空はカタール航空との提携を広げており、ドーハと成田を結ぶ貨物専用機の相互活用を検討しています。日本航空がワンワールド陣営の中東キャリアと組むのに対し、ANAはスターアライアンス陣営の欧州キャリアと組むという形で、旅客側のアライアンスの力関係が貨物事業の提携相手選びにも反映されていると見ることができます。

ルフトハンザ・カーゴは2025年の通期決算で売上高が34億ユーロ(前年比4パーセント増)、調整後の事業利益は3億2400万ユーロ(29パーセント増)となり、取扱量を示す有償貨物トンキロメートルは91億(7パーセント増)まで伸びました。自社でボーイング777F型貨物機12機とエアバスA321F型4機を保有し、2025年期を通じて世界の航空貨物提供企業の上位5社に返り咲いたと発表しています。業績が上向いている欧州側の有力企業と組むことは、ANA・NCA側にとって欧州域内での集荷力や通関ノウハウを取り込める利点があります。

中東情勢や迂回ルートという地政学的な背景も無視できない

日欧間の航空貨物は、これまで中東のハブ空港を経由する便に支えられてきた面があります。しかし中東情勢の緊張が高まった局面では、南アジアと欧州を結ぶ貨物運賃が70パーセント上昇したと報じられるなど、中東経由の輸送網は混乱のリスクを抱えています。加えて2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、日欧間の便はロシア上空を避けて中東方面を迂回する経路を使うことが多くなっており、中東情勢が悪化すればさらに遠回りの経路を選ばざるを得ず、飛行時間と燃料費が増える構造になっています。ANAとルフトハンザ・カーゴ、スイス インターナショナル エアラインズが直接的な日欧間のネットワークを強化しておくことは、中東ハブ経由の輸送が不安定になった場合の代替手段を確保する狙いも含んでいると考えられます。特定の経由地点に依存した輸送網は、情勢が変わるたびに運賃や所要時間が揺れやすいため、スターアライアンス陣営同士で直接つながるルートを太くしておくことは、荷主にとっても安定した選択肢になります。

旅行者にとってこの提携はどう関係するのか

今回の覚書はあくまで協力関係の検討を始める段階の発表であり、具体的な新規路線や増便がすぐに決まったわけではありません。そのため、旅行者が今すぐ行動を変える必要がある話ではないというのが実情です。ただし、国際線の便数や機材の大きさは旅客需要だけでなく貨物需要との両方を見て決められているため、日欧間の貨物事業が安定して伸びていくことは、中長期的にその路線網を支える基盤になります。貨物で稼げる路線は旅客の需要が多少落ち込んでも便数を維持しやすく、逆に貨物需要の乏しい路線は旅客が多くても機材変更や減便の対象になりやすいという関係があります。

今後の注目点としては、今回の覚書をもとに貨物のジョイントベンチャーが実際にどこまで具体化するか、そしてその結果としてANAやスイス インターナショナル エアラインズの日欧間の旅客路線に増便や機材大型化といった動きが出てくるかどうかです。現時点では期待を先取りして「増便が近い」と断定できる材料はありませんが、貨物事業の基盤が強化されること自体は、日欧間の航空ネットワークにとって前向きな材料です。日欧間を往復する機会が多い方は、今後のANA・ルフトハンザ・スイス インターナショナル エアラインズ各社の路線発表にも併せて注目しておくとよいでしょう。

ぴりか

地理や旅行が大好きな一般人。東京出身ですが、四国、九州など転々と移住し、今は北陸に住んでいます。学生時代に47都道府県を自転車で制覇。国内旅行業務取扱管理者の資格あり。JGC取得済み。

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