JALとJR4社が巡礼観光で連携 出羽三山・熊野古道・四国遍路を結ぶ広域周遊の狙い

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日本航空(JAL)とJR東日本・JR東海・JR西日本・JR四国の合わせて5社が2026年7月30日、訪日旅行者に向けた新しい広域観光の取り組みを始めると発表しました。テーマは「巡礼・精神文化」で、山形県の出羽三山、和歌山県などの熊野古道、四国4県にまたがる四国遍路という3つの地域を、ひとつのブランドとして海外へ売り込みます。

鉄道会社4社と航空会社が同じテーマで手を組む例はそう多くありません。しかも扱うのは、東北・紀伊半島・四国という、地図の上ではまったくつながっていない3地域です。この組み合わせに何を狙っているのかを、数字を踏まえて読み解いていきます。

発表された取り組みの中身

5社は「DISCOVER JAPAN’S SACRED JOURNEYS」と名づけた英語の特設ページを7月30日に公開しました。出羽三山・熊野古道・四国遍路の3つを、それぞれ独立した観光地としてではなく、「日本の巡礼と精神文化」という共通の軸でまとめて紹介する内容です。

その後の展開も段階的に示されています。2026年9月から10月にかけて3地域を結ぶ共通のブランディングを策定し、海外メディアへの共同での情報発信とデジタル広告を展開します。11月ごろには、ジェイアール東日本企画が提供する駅のデジタルスタンプアプリ「エキタグ」の多言語版を用意し、3地域をまたいで巡ってもらう仕掛けをつくります。各地域では英語ガイド付きのツアーや、特別な体験メニューの提供も予定されています。

主なターゲットは欧米豪、つまりヨーロッパ・北米・オーストラリアからの旅行者です。5社は今回の取り組みを単発の企画ではなく、オリジナルの旅行商品づくりも含めて中長期で進めるとしています。

なぜ鉄道4社と航空会社が組む必要があったのか

この座組みの理由は、対象となった3地域の場所を並べるとはっきりします。出羽三山は山形県の庄内・村山地方、熊野古道は紀伊半島の南部、四国遍路は四国全域です。どこも新幹線の駅からそのまま歩いて行ける場所ではなく、かといって空港から直行できるわけでもありません。飛行機で近くの空港まで飛び、そこから在来線特急やローカル線、さらにバスやタクシーを乗り継ぐことになります。

つまり、鉄道だけでも航空だけでも旅程が組めない地域です。JALと4社は今回の取り組みを「立体型観光」と表現していますが、これは飛行機の路線網と鉄道の路線網を組み合わせて初めて現実的な旅程になる、という実務上の必要から出てきた言葉だと考えられます。3地域が地理的にばらばらであることは弱点ではなく、むしろ「1回の訪日で複数の巡礼地を回る」という長期滞在の提案につながります。

もうひとつの動機は、大都市圏に偏った訪日需要を地方へ振り向けることです。ここには収益面の事情もあります。東京・京都・大阪の主要ルートはすでに混雑していて、これ以上人を集めても列車や宿の座席・部屋数という上限に当たります。一方で地方路線には空席が残っています。同じ1人の訪日客に、東京往復だけで帰ってもらうのか、羽田から入って庄内へ飛び、鉄道で南下してもらうのかで、5社が受け取る運賃の総額はまったく変わってきます。

なぜ「今」なのか 訪日客の中身が変わっている

タイミングを説明するのが、訪日客の構成の変化です。日本政府観光局の推計では、2026年6月の訪日外客数は314万8,600人で、前年同月を6.8パーセント下回りました。上半期の累計は2,108万4,800人です。総数だけを見れば頭打ちに見えます。

ところが同じ6月に、韓国・台湾・ベトナム・インド・豪州・米国・カナダ・メキシコ・英国・フランス・イタリア・スペイン・ロシア・北欧地域・中東地域という15の市場が、6月として過去最高を記録しています。総数が減った主因は中国からの旅行者の落ち込みであり、欧米豪はむしろ増え続けているという構図です。

欧米豪の旅行者は滞在日数が10日を超えることが多く、1人あたりの支出も東アジアからの旅行者より大きくなります。人数の減少と収益への影響は一致しません。5社が欧米豪に狙いを定め、しかも短期の周遊ではなく「巡礼」という時間のかかるテーマを選んだのは、この構造を踏まえた判断ではないでしょうか。滞在が長い客層に、移動距離の長い商品を売るという組み立てです。

3地域が選ばれた理由は実績にある

対象地域の選定も、思いつきではなく実績に基づいています。

熊野古道では、外国人観光客が20年でおよそ60倍に増えたとされています。和歌山県の外国人延べ宿泊者数は2025年に71万3,562人泊となり、前年比39.8パーセント増で過去最高を更新しました。四国遍路では、2017年の時点で外国人が巡礼者全体の16.6パーセントを占め、10年前の10倍に達しています。四国は2022年の「ロンリープラネット」ベスト・イン・トラベルの地域部門で6位に選ばれました。

出羽三山は3つのなかでは知名度が低いものの、山伏とともに歩く修行体験や宿坊での滞在が欧米のクリエイティブ層に受け入れられており、1人30万円を超えるプログラムも成立しています。同時に課題も抱えていて、江戸時代には300以上あった宿坊が現在は28まで減りました。受け入れ側の体力が落ちているところに、単価の高い客層をどう呼び込むかという地域の事情と、5社の狙いが噛み合った形です。

日本人旅行者にとって何が変わるか

今回のプロジェクトは訪日客向けの取り組みなので、日本人向けの割引きっぷや専用商品が出るわけではありません。ただ、影響がないわけでもありません。

英語ガイド付きツアーや体験メニューが整備されると、その受け皿として現地の二次交通や案内表示も手が入ります。バスの時刻がわかりやすくなったり、拠点駅からのアクセスが整理されたりする効果は、日本人旅行者にもそのまま届きます。エキタグの多言語版が11月ごろに始まるという点も、日本語版を使っている人にとっては対象駅が増える可能性があります。

一方で、混雑の読みにくさは増します。とくに出羽三山の宿坊は28軒しかなく、団体の予約が入れば個人が取れる部屋はすぐになくなります。熊野古道の中辺路沿いの宿も部屋数が限られます。秋の紅葉シーズンにこれらの地域を訪ねる予定があるなら、宿の確保を先に済ませてから交通手段を決める順番にしたほうが確実です。

四国遍路については、区切り打ちで少しずつ回る人が多く、宿の逼迫は出羽三山ほど急ではありません。ただし英語ガイド付きツアーが動き出す時期と重なると、札所の納経所が混み合う場面は出てきそうです。早朝に動く、平日に回すといった基本的な工夫で避けられる範囲だと考えています。

まとめ

JALとJR4社が組んだ今回の取り組みは、訪日客の総数が伸び悩むなかで、単価の高い欧米豪の長期滞在客をどう地方へ流すかという課題への具体的な答えです。出羽三山・熊野古道・四国遍路という組み合わせは、地理的にばらばらだからこそ航空と鉄道の両方が要る、という前提で選ばれています。

日本人旅行者にとっては直接の商品ではありませんが、現地の受け入れ環境が整う一方で宿は取りにくくなる、という両面があります。この秋にこれらの地域を訪ねるつもりの方は、宿の予約を早めに動かしておくことをおすすめします。

ぴりか

地理や旅行が大好きな一般人。東京出身ですが、四国、九州など転々と移住し、今は北陸に住んでいます。学生時代に47都道府県を自転車で制覇。国内旅行業務取扱管理者の資格あり。JGC取得済み。

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