何が変わったのかを整理します
今回示された取り組みは、大きく3つに分かれます。
| 領域 | 内容 | 時期 |
|---|---|---|
| 空港業務 | 関西空港の旅客ハンドリングを自社化(国内線) | 2025年7月 |
| 空港業務 | 関西空港の旅客ハンドリングを自社化(国際線) | 2026年7月 |
| デジタル | 搭乗ゲートに携帯端末型の読み取り機を導入 | 実施済み |
| デジタル | 自動音声案内の導入 | 実施済み |
| デジタル | アプリのチェックイン機能を強化 | 実施済み |
| 機内 | 機内食・機内販売・機内誌・子ども向けおもちゃを刷新 | 2026年8月1日 |
| 機内 | 小さな子ども連れの家族に機内プレゼントを配布 | 実施中 |
旅客ハンドリングというのは、チェックインカウンターでの受付、手荷物の預かり、搭乗ゲートでの案内、そして現場責任者の業務までを含む地上での旅客対応全般です。多くの航空会社、とくにLCCはこれを空港の専門会社に委託しています。Peachはそれを関西空港では自前でやることにしました。
自社化にあたっては、旅客ハンドリング経験が6か月以上あることなどを条件に経験者を採用し、30人程度が2025年4月1日に入社しています。現場からは乗客に感謝される場面が増えたという声が上がり、スタッフの意欲にもつながっているとしています。
デジタル面では、搭乗ゲートの読み取り機が携帯端末型に変わったことで搭乗手続きが速くなりました。自動音声案内は、案内が聞き取りにくいという指摘に対応したものです。アプリのチェックイン機能も改良され、カウンターに並ばずに手続きを終えられるようになっています。
機内サービスは2026年8月1日にラインナップが刷新されました。機内食では「濃厚ミートソーススパゲッティ」が新登場し、国産の白桃を使った「桃のジェラート」も内容が変わっています。ただしこの2品はいずれも国際線での提供です。機内販売にはケース入りトランプ、機内誌「MOMOMAG」のキャラクターであるラブミの新商品としてパッカブルタオルとケーブル・マスコットセットが加わりました。子ども向けには8月10日から「サイコロすごろく」の配布が始まっています。
LCCがあえて固定費を増やしてまで自社化する理由を考えます
ここが今回の発表で最も注目すべき点です。LCCの経営は、いかにコストを削るかで成り立っています。地上業務を専門会社に委託するのは、その典型的な手段です。委託であれば人件費は変動費に近く、便数を減らせば支払いも減ります。自社で人を抱えれば、便が飛ばない日でも給料は発生します。空港がグランドハンドリングを内製化する際のリスクとして、人件費や地上支援機材の維持費といった固定費の増加が挙げられているのは、まさにこの構造のためです。
それでもPeachが自社化に踏み切ったのは、委託を続けるほうがかえって危ないと判断したからではないでしょうか。
グランドハンドリング業界は深刻な人手不足に陥っています。航空分野の有効求人倍率は4.99倍、陸上での荷役・運搬作業員は5.81倍という水準です。求人5件に対して求職者が1人という状態が続いており、その背景には賃金水準、不規則なシフト、厳しい労働環境が絡み合った構造的な問題があると指摘されています。委託先が人を集められなければ、カウンターは開かず、搭乗は遅れ、最悪の場合は便を飛ばせません。航空会社にとっては、自社ではコントロールできないところに運航の生命線を預けている状態です。
Peachの遅延の中身を見ると、この判断の切実さがさらに見えてきます。国土交通省の統計をもとにした分析では、Peachの機材故障が全遅延に占める割合は6.44%で、同じ規模のジェットスターの1.50%と比べて差が大きくなっています。そして遅延理由として最も多いのは「機材繰り」です。1機の遅れが次の便、その次の便へと連鎖して広がっていく構造で、LCCは機材を高い稼働率で回すぶん、この連鎖に弱くなります。地上での折り返し作業を自分たちで管理できるかどうかは、この連鎖を断ち切れるかどうかに直結します。
業績の踊り場で「体験」に投資する意味
もう一段深く見るために、Peachの直近の業績を確認しておきます。
2026年3月期の営業収入は1,435億8,200万円で、前期の1,394億1,200万円から増えました。ところが営業利益は66億9,900万円で前期の188億3,500万円から、最終利益は85億500万円で前期の187億6,000万円から、いずれも半分以下に落ち込んでいます。旅客数は945万人で2.0%増、搭乗率は84.3%で0.1ポイントの低下でした。
収入は増えているのに利益が大きく減っている。人を運べていないのではなく、1人を運ぶコストが上がっているということです。この局面で取れる手は2つあります。運賃を上げるか、価格以外の理由で選ばれるようにするかです。
LCCが運賃を上げれば、存在意義が薄れます。とくにPeachは国内線でANAの減便を穴埋めする形で路線を広げてきた経緯があり、2026年7月には関西〜釧路線と関西〜女満別線を開設、9月20日には成田〜ソウル/仁川線の運航も予定しています。路線を広げている最中に運賃を上げるのは、埋まらない座席を増やすことにつながりかねません。
そこで残るのが、価格以外での差別化です。カウンターで自社の社員が対応する、ゲートの通過が速い、アプリで並ばずに済む、子ども連れに配慮がある。こうした積み重ねは、同じ運賃なら次もPeachを選ぶという理由になります。とりわけ関西空港は国内線12都市・国際線8都市に路線を持つ同社の中核拠点で、2026年4月1日には第2ターミナルの国内線エリアも改装されました。ここでの体験を作り込むことは、Peach全体の印象を左右します。
利益が半減した年に固定費の増える自社化を進めるのは、短期的には苦しい選択です。それでも進めているのは、これを「コストではなく、価格競争から抜け出すための投資」と位置づけているからだと考えられます。
利用者にとって何が変わり、どう使えばよいのでしょうか
まず、関西空港でのPeachの手続きは、以前より読みやすくなったと考えてよいでしょう。委託の場合、現場の判断で対応できる範囲には限りがあり、イレギュラーが起きると本社に確認するため時間がかかります。自社の社員が責任者まで務める体制なら、その場で判断できる幅が広がります。手荷物の規定や乗り継ぎの相談など、判断が必要な場面では以前より話が早いはずです。
次に、搭乗ゲートの通過が速くなっています。携帯端末型の読み取り機が導入されたためで、搭乗開始から出発までの時間に余裕が生まれます。とはいえ、LCCは搭乗締切が厳格です。Peachの場合、保安検査場は出発時刻の25分前までに通過し、搭乗口には20分前までに到着している必要があります。締切に間に合わなかった場合、運賃の払い戻しはありません。ゲートの処理が速くなったことと、締切に間に合うかどうかは別の話なので、時間には従来どおり余裕を持ってください。
3つめに、アプリのチェックイン機能を使うことです。カウンターに並ばずに手続きを終えられるので、預ける荷物がなければそのまま保安検査場へ向かえます。関西空港の第2ターミナルは搭乗橋を使わない造りで、ゲートから機体まで歩く時間も見込む必要があるため、手続きで削れる時間は削っておくほうが安心です。
4つめに、機内サービスの内容です。新登場の「濃厚ミートソーススパゲッティ」と、内容が変わった「桃のジェラート」はどちらも国際線のみの提供です。国内線に乗って探しても見つかりません。子ども向けの「サイコロすごろく」は8月10日から配布されています。小さな子どもを連れて乗る予定があるなら、機内での時間の過ごし方に選択肢が増えたことになります。
最後に、期待の置き方についてです。自社化やデジタル化が進んでも、Peachが機材繰りによる遅延を起こしやすい構造そのものが消えたわけではありません。当日中に戻らなければならない日程や、乗り継ぎに余裕のない行程で使うときは、地上業務が改善されたこととは切り離して、遅延の可能性を織り込んだ計画を立てておくのが現実的です。
まとめ
Peachは関西空港の旅客ハンドリングを、国内線は2025年7月、国際線は2026年7月に自社運営へ切り替えました。搭乗ゲートの読み取り機の変更、自動音声案内、アプリのチェックイン機能の強化、8月1日の機内サービス刷新も含めて、価格以外のところで選ばれる会社になろうとしています。
関西空港からPeachをよく使う人、小さな子どもを連れて乗る人、カウンターでのやり取りに不安がある人にとっては、実感しやすい変化です。一方で、運賃の安さだけを求めていて空港での体験に関心がない人にとっては、直接の得は少ないかもしれません。搭乗締切の厳しさや遅延の起きやすさは変わっていないので、この2点だけは従来どおり慎重に見ておいてください。


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