JR東日本は、中央本線の特急「あずさ」が2026年12月12日に運行開始60周年を迎えることを記念し、特別なツアー列車を運転すると発表しました。使われるのは、天皇皇后両陛下のお召し列車としても使われるE655系「なごみ(和)」です。ふだんは定期特急に使われることのないこの車両で、新宿と松本の間を1日だけ往復します。あずさの60年の歴史を振り返りながら、記念企画の内容と、申し込みを考えている方が知っておきたいポイントをまとめます。
「あずさ60th Anniversary号」とはどんな列車か
特急「あずさ」は1966年12月12日、中央本線新宿~松本間で運行を開始しました。当時の車両は181系で、10両編成のうち2両がグリーン車、さらに食堂車も連結されており、新宿~松本間を最速3時間57分、1日2往復で結んでいました。その後1973年に183系、1975年に189系へと置き換えられ、1971年には大糸線信濃大町駅まで、1972年には白馬駅まで季節延長運転するようになりました。現在は2017年12月に営業運転を始めたE353系が、2019年春のダイヤ改正で定期列車に統一されています。
今回の記念ツアー列車「あずさ60th Anniversary号」は、2026年12月12日の1日限りで運転されます。往路は新宿駅8時51分発・松本駅12時57分着、復路は松本駅15時55分発・新宿駅18時54分着というスケジュールです。使用されるE655系「なごみ(和)」は、天皇皇后両陛下が利用されるお召し列車にも使われる全席グリーン車仕様のハイグレード車両で、団体専用として運転される際は皇族・VIP用の特別車両を外した編成で走ります。
料金はグリーン車プランで大人41,000円、こども35,000円です。申込先はJR東日本びゅうツーリズム&セールスが運営する旅行商品サイト「日本の旅、鉄道の旅」で、受付は2026年10月30日10時から始まっています。旅行商品として企画されているため、最少催行人数は90人に設定されており、申込状況によっては運転が見送られる可能性もあります。
なぜ今、こうした大掛かりな記念企画を打つのか
高速バスとの競合という下地
新宿~松本間では、JRの特急あずさと中央道を走る高速バスが長年競合関係にあります。鉄道は2時間30分から3時間程度、高速バスは3時間10分程度で、所要時間では鉄道に優位性がありますが、2016年に新宿駅南口にバスターミナル「バスタ新宿」が開設されて以降、乗り換えの手間が減ったバス側の利用者が増える傾向が続いています。運賃も高速バスの方が安く、特急料金込みの鉄道との価格差は大きいままです。
一方で、JR東日本が発表した2026年GW期間(4月24日~5月6日)のあずさ・かいじ系統の利用者数は40.5万人で前年比103%、お盆期間(8月)のあずさ・かいじ・富士回遊(八王子~相模湖間)の利用者数は37.2万人で前年比101%と、コロナ禍からの回復は着実に進んでいます。ただし、これは行楽シーズンに限った数字であり、平日の通勤・通学利用を含めた年間を通じた需要の底上げには、高速バスにはない「鉄道ならではの体験」を打ち出す必要があります。60周年という節目は、そのための分かりやすい口実になっています。
話題性と収益を同時に狙う記念企画
今回のツアー列車は、グリーン車プランで往復41,000円という設定です。通常の特急あずさ普通車指定席(新宿~松本間、乗車券4,180円・特急料金2,550円の合計6,730円)の片道料金と比べると、往復で考えても3倍以上の価格になります。普段は定期運用に入らないE655系「なごみ」を使うからこそ成立する価格設定で、最少催行人数90人を集められれば、1回の運転で高い収益が見込める企画です。
さらに、お召し列車としても使われる特別な車両を一般の旅行者が利用できる機会は、鉄道ファンだけでなく、ニュースとして報じられることでJR東日本の中央線特急そのものへの関心を高める効果もあります。実際にJR西日本も2025年に特急「くろしお」の60周年記念イベントを和歌山駅で開催するなど、JR各社は節目の年に合わせたレトロ・記念企画を使って話題を作る手法を定着させつつあります。1日限りの企画であれば大きな投資をせずに済み、反応が良ければ同様の企画を別の特急・別の節目でも展開しやすいという側面もあります。
申し込みを考えている方へ
ツアー列車自体は2026年10月30日10時から申込受付が始まっているため、参加を考えている方は「日本の旅、鉄道の旅」のウェブサイトで早めに申込状況を確認することをおすすめします。最少催行人数90人に達しない場合は運転中止となる可能性があるため、直前になってから申し込むより、早い時期に申し込んで催行の見通しを確認しておく方が安心です。
この特別列車は通常のあずさ・かいじの定期ダイヤに影響するものではないため、12月12日に通常の特急あずさを利用する方への影響は基本的にありません。一方で、60周年記念企画としては、新宿・立川・八王子・甲府・上諏訪・松本の各駅と特急あずさ車内に設置される「エキタグ」スタンプラリーが2026年12月1日から2027年2月28日まで実施され、こちらは特別な申し込みなしで誰でも参加できます。あわせて、181系やE353系をデザインした記念駅弁、歴代あずさ車両をデザインした日本酒、60周年記念クラフトビールなどの記念商品も販売されるほか、JRE POINTのプレゼントキャンペーンも予定されています。ツアー列車のグリーン車プランは価格的にハードルが高いという方でも、こうしたスタンプラリーや記念商品であれば気軽に60周年を楽しめます。

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